indications of put an end


 俺は、ピオニー・ウパラ。職業は舞台俳優で、まぁ自惚れでなければ、そこそこ人気のある方だと思う。もっとも、マスコミにメジャーデビューもしてないから、世間で顔が知れ渡っているというほどじゃない。
 金髪碧眼の褐色肌。容姿端麗の美声年。うん、間違っちゃないと一人で納得する。
 そうして、此処は母国じゃない。活動拠点を広げる為に、単身こっちへやって来たのだ。端役とはいえ仕事も貰えて、足掛かりとしては上々。
 その芝居のスポンサーでもある、ファブレ侯爵に招待されて、全く馴染みのないパーティとやらに駆り出されたのだ。そうそう、此処はその会場のホテル。
 そこで、あいつに…。
  思考が至ったピオニーは、始めて目覚めたようにベッドの上に跳ね起きた。 
 身の毛もよだつ夢を見た。恐怖で思わず泣き出してしまいそうな夢だ。
いやそうじゃない、実際自分は泣いているのではないだろうか、視界がやけに霞んで見える。

「やっと、目が覚めましたね。」
 
 背中から降ってきた声に、ぶるりと身体が震えた。
不覚にも瞳から涙が零れそうになって、ゆっくりと首を後ろへ曲げる。
 腕を組み呆れた表情のジェイドが、ベッドの上で正座しているピオニーを見下ろして、溜息を付いた。
「なんて顔してるんですか。」
「ジェイド…。」
 すと伸ばされた白い指先が、僅かに頬を掠めて額を抑える。
や、ちょっと、待て。待ってください、お願いします。そんな言葉が口から飛び出す前に、ジェイドはほっと笑みを浮かべた。
 見たこともないような、綺麗な笑みに一瞬だけ我を忘れる。
「どうやら熱も下がったようです。体調はいかがですか?」
「え…ね、熱?」
「かなり酷かったようでしたが、覚えていないんですか?」
「あ、ああ。」
 身体が急に熱くなって、それと共に思考が飛んで…。
 無惨なタキシードを見遣って、ピオニーは自分にゆとりが無かったという事実だけは何とか思い出した。じゃあ、あれは夢。熱に浮かれた悪夢だったのだと、胸を撫で下ろし、ピオニー気の抜けた表情に変わった。見つめる瞳は複雑な色をほんの少し滲ませる。
 しかし、見上げた碧にその色は消えた。
「…すまん。こんなところに来てまで世話かけた。…でだ、世話をかけたついでなんだが…。」
 口ごもったピオニーの姿に、ジェイドはクスリと笑う。
「着替えなら用意してありますよ。それとも、ファブレ侯爵への謝罪ですか?」
「両方だ。」
「わかりました。そちらは後日連絡を入れておきます。他には何かありますか?」
 ふるりとピオニーは首を振った。事務的なジェイドの声が、やっと冷静さを取り戻させてくれたような気がした。ベッドから腰を上げて、渡された服に袖を通す。
 仕立てのいい上等な服だ。ピオニーの視線に、ジェイドは彼の言いたい事を察する。
「貴方は招待客ですから、不備があっていいはずがありません。遠慮する方が非礼というところですね。」
 招待されたパーティーで抜け出した挙げ句に熱を出して寝込んだ。ここまででも、充分に礼を欠いていた。これ以上は流石に困る。
 此処は大人しくジェイドの言葉に従おうと考えてていると、ジェイドは更に質問を重ねた
「足がないのでしたらお送りしましょうか?」

→送ってもらう
→ひとりで帰る



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