aftershock 「教団本部に送っていただいたはずなのに、どうして処なんでしょうねぇ。それもお引っ越しの真っ最中ですか?」 ザレッホ火山の火口。教団にいるはずの兵士がいることに特に驚いた様子もみせずにジェイドは額に手を翳して左右を眺めて見せた。彼を囲んでいた人々の顔が益々憮然としたものにかわっていく。 「あ、ジェイド〜〜〜!!私を助けに来てくれたんですね〜。」 武装した騎士団に囲まれていたディストが仰け反り、はーっはっはっと高笑う。 「流石、私の親友です。」 「おや?どこにそんな方がいらっしゃるんですか?」 ディストは、ジェイドの答えを聞くや否や、背中から出てきた手の形をした音機関で目の前の騎士達を殴り倒すと、両手を広げて駆け寄って来る。 「酷いじゃないですか、私の金の貴公子〜〜〜〜!!!!」 「逃げられるのなら最初からそうして下さい。」 「捕まった私を親友の貴方が…。」 妄想ビジョンを頭に浮かべ、両手を胸の前に組み瞳に星を輝かせるディスト。無反応のジェイド。ポツリと一言。 「前大詠師殿の遺産と一緒に貴方も焼きますか…。」 「いい加減にしろ!」 怒りで声が震えていた。『死霊』『死神』の二つ名を持っているとはいえ、人数的にはかなり不利なはず。この余裕は一体何だ。 「お前達のかけあい漫才(あるのか!?)を見る為にこんなところに来たわけではない!死にたくなければ『炎の種』をよこせ!」 「そんなもの最初から持っていませんよ。いつ発芽するかわからないようなもの怖くて持ち歩ける訳ないじゃないですか。」 にっこりと嗤って手を竦めてみせたジェイドに、その場にいた全ての人間が言葉を失った。それに向かいジェイドは深々とお辞儀をする。 「きっちりと騙されていただいてありがとうございます。」 そして、顔を上げたジェイドの表情は『死霊使い』に相応しいもの。 他を圧倒する気迫は、彼からは滅多に伺い知る事の出来ない怒りによるものだった。 「そんなに預言がお好きなら貴方達だけで死になさい。 私は破滅の預言など御免被ります。うちの皇帝に手を出すことも許しません。」 相手の何を言うかと告げる声も当初よりは勢いというものを削がれている。 「それこそきさまらの…散々我々の邪魔をした挙げ句、金さえ払えば皇帝を引き渡すと書状はその男の名で送られてきたぞ!」 指をさされて、ディストは動きを止めた。そしてジェイドの視線を受けて、ひぃぃと声を上げ、頭を庇う。 「私じゃないですよ!!!やってませんよ!」 「残念ながらそのようですね。これで、貴方達の元に陛下がいらっしゃらないこともはっきりしました。」 ジェイドは皮肉を綺麗な笑みにのせ、眼鏡を指で押し上げた。 「村を焼き払ったり、高位の人間を手にかけたり、調べてみると預言に記述がありました。一昔前ならまだしも、今の貴方等はただの犯罪者です。」 「預言通りの正しい世界を示している。間違っているのはきさまらだ!」 彼等にとって、預言は絶対の真実。ひと括りにするのなら、それを覆せないと思っていたヴァンと同じだとジェイドは考える。 そして、それを誰よりも望まず消えていった者達を知っている。 「馬鹿いってんじゃないわよ。」 騎士団を囲むようして現れた複数の人影。その中から一歩踏み出した人物はノワール。細い腰に手を当てて蔑んだ目付きで、騎士団を見下ろしていた。 「あんた達の手前勝手な理屈で、命のやりとりなんざされたったて敵わないわ。ねえ、旦那。」 「そうだな。」 彼女の横で、纏を深く被った男が答えた。 声は凛とした響きを持ち、ジェイドは眩しいものを見るように微かに目を細める。そして、纏を落とした顔に、ジェイドを除くその場の人間は皆息を飲んだ。 金髪碧眼の端正な顔立ちに不敵な笑みを浮かべる男。 マルクト帝国現皇帝−ピオニー9世陛下−は、その立場に相応しい堂々とした態度で、人々を見下ろした。 「やはり、そうでしたか。」 ジェイドは苦笑した。 誘うような隠し扉。 待ち受けていた人間の有能さ。司令官がどれほど戦の勝敗を左右するかという、これが見本だ。たった数日で、彼はただの盗賊を手練れの兵士に仕立て上げたのだ。 自分を出し抜いた彼等と出会った時からジェイドにはこの予想はあった。 すっと、ピオニーが片手を上げると人影は一斉に動く。 「預言などいらない!お前らの腕で確かに示してやれ!」 ピオニーはそう言い放ち、盗賊達は一気に騎士団に襲いかかった。 content/ next |